障害基礎年金について誤った教示をした役場職員の不法行為を認めた判決

  障害基礎年金を請求しようと市役所を訪れた方(本件控訴人)に対し、職員が誤った教示をしたことで障害基礎年金の請求が遅れた。時効により5年前の年金は支払われず、国家賠償を求め提訴。一審では誤った教示の事実が認められなかったが、控訴審では事実認定され不法行為による国家賠償請求が認められた事案です。

参考資料として掲載しましたが、このような事例では事実を証明できるだけの証拠・資料がなく審査請求でも棄却される例があります。

控訴人の発病及び経過は以下のとおりです。

  • 昭和35年2月出生。先天性鎖肛で生後二日目に手術。
  • 昭和37年に結腸肛門吻合術を受けるも不調のため、人工肛門増設(横行結腸ストーマ移設)を受ける。  この当時から排尿障害が認められた。
  • 昭和51年3月に右下腹部人工肛門増設(S字結腸ストーマ移設)を受ける。
  • 昭和60年3月、身体障害者手帳4級が交付された。
  • 昭和61年11月ころ腸閉塞で入院、医師の奨めで身体障害者手帳3級の申請とその後に障害年金の請求をすることを決める。
  • 昭和62年1月、身体障害者手帳3級が交付された。
  • 昭和62年3月頃市役所へ障害基礎年金の申請のため国民年金担当窓口を訪れた。間違った説明を受け請求を断念する。

判決の抜粋

損害賠償請求控訴事件、東京高裁 平20(ネ)2955号、平22.2.18民21部判決、変更(確定)


<前略>

エ しかして、前記法令の定めによれば控訴人から「障害年金を受けられると聞いて申請をしたいのですが。」との申出を受けた本件職員としては、控訴人の申出が障害基礎年金の裁定請求の手続をしたいとの趣旨であることが明らかであるから、控訴人の申出の趣旨に沿って、控訴人に、上記記載事項を記載した障害基礎年金裁定請求書を作成させ、記載事項に記載された内容によって添付すべき書類等を提出させ、障害基礎年金裁定請求書の作成と添付書類の提出が整えば、裁定請求書等に受付印を押印後、受付処理簿の所定欄に所要事項を記入する等所要の処理を行い、管轄社会保険事務所に進達するための部内処理手続をする必要があり、かつ、それをもって足りたものというべきである。そして、身体障害者福祉の理念からして障害基礎年金の受給権が極めて重要な権利であると認められること、障害基礎年金の受給要件に関する法令の規定が複雑かつ難解であること、受給権者の請求に基づく裁定主義を採用していることから受給権者による裁定請請求がなければ当該受給権者に対する給付が行われることはなく、当該受給権者に対する関係において上記の目的を達成することはできないこと及び本件職員が国民年金に関する事務の窓口担当者として、控訴人とは比較にならないほどの豊富な障害基礎年金の支給要件等に関する情報を保有していることを併せて考慮すると、裁定請求書等の受付事務を上記内容で遂行することを本来の職務とする本件職員としては、控訴人に対して、その窓口を閉ざすに等しい対応をしてはならないというべきであって、仮にも、控訴人に対し、自らの判断により、裁定請求をしても裁定を得られる可能性はないとか、裁定されることは困難であろうとか、あるいは、請求が却下されるであろうとか意見を述べ、教示するなどして、裁定請求の意思に影響を与えて請求意思を翻させたり、請求を断念させたりする結果を招いたり、そのように仕向ける窓口指導等をしてはならず、法令の定める手続に従って裁定の審査を受ける機会を失わせてはならない職務上の注意義務を負うものというべきである。そして、この義務は、日本国憲法25条2項に規定する理念と障害者が社会生活及び地域社会の発展に参加し、社会経済の発展の結果である生活向上の平等の配分を受け、他の市民とともに同等の生活を享受する権利の実現を促進するという身体障害者福祉の理念とに基づき、障害によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする国民年金制度の下における障害基礎年金裁定請求手続において、往民の福祉の増進をを図ることを基本として地域における行政を実施する旧黒磯市が担う事務を担当する本件職員が、障害基礎年金の裁定請求をしたい旨の申出をした控訴人に対して職務上負う法的義務であるということができる(控訴人の注意義務に関する主張は、上記の職務上の注意義務の主張を含むものと認める。)。

オ そこで本件職員に上記注意義務違反の事実があったか、否かについて検討するに、控訴人は、客観的には、旧国民年金法57条1項の規定に基づき、20歳に達した日である昭和55年1月31日に障害福祉年金の給付を受ける権利を取得し、昭和61年4月に障害基礎年金の給付を受ける権利を取得していると判断されるにもかかわらず、本件職員は、控訴人が所持していた障害者手帳を確認したのみで控訴人が障害基礎年金の支給要件を満たさないとの誤った判断(障害者手帳のみによる上記判断が不当であることは、国民年金法施行規則31条2項に障害基礎年金裁定請求書に添付すべきものとされている書類が明記されていることからして明らかである。)の下に、「国民年金を納める前の発病で年金を納めてないから無理ですね。等級も三級だから無理です。」「まあ甲野さんの場合、これ以上手足が不自由になるか、車いすになるとかで障害が重くなれば申請できますが。」との発言をして控訴人には受給権がないとの誤った断定的判断(これが誤った断定的判断であることは上記認定説示から明らかである。)を示し、控訴人をして裁定請求を断念するに至らせ、控訴人に後記損害を被らせたものということができるのであるから、本件職員の上記行為は職務上の注意義務に違反したものであり、本件職員の上記行為について不法行為が成立するというべきである。

カ なお、本件職員が控訴人に対し、上記のとおり発言をしたことにより、控訴人が裁定請求を断念したとの認定について補足説明すると、障害基礎年金の受給要件に関する法令の規定が複雑かつ難解であることは上記説示のとおりであるところ、本件職員の発言は、「国民年金を納める前の発病で年金を納めていないから無理ですね。等級も三級だから無理です。」という具体的理由を付した説明であって、障害基礎年金の受給要件についての正確かつ十分な知識を持ち合わせていなかったと推認される控訴人が、本件職員の説明を信用するのは無理からぬところであり、しかも、本件職員は、上記発言に続けて「まあ甲野さんの場合、これ以上手足が不自由になるか、車いすになるとかで障害が重くなれば申請出来ますが。」と発言したことが認められるのであり、この発言は、控訴人の障害の程度が重くならなければ受給要件を満たさないという趣旨であり、控訴人を立腹させるに足りる障害者を卑下したとも受け取れる発言であり、控訴人としても返す言葉がなかったのであり、控訴人としても「そうですか分かりました。」と言って引き下がらざるを得なかったことが認められるのであるから、控訴人は、本件職員の上記発言が原因で障害基礎年金の裁定請求を断念したことが認められるというべきである。

<以下省略>
* 下線はサイト管理人が引きました。
* 判例時報 2111号より引用しています。

コメント

・ 役所や年金事務所での説明で納得の行かない場合、理由を再確認すること。窓口職員の説明に誤りがあった時はその場で気づくこともあります。

・ 障害年金を専門にする社会保険労務士に相談することが重要だと考えます。

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