遡及請求が再審査請求で認められた事案

請求人 A男   昭和16年生
原処分をした行政庁 社会保険庁長官

主文  社会保険庁長官が平成14年6月6日付で、再審査請求人に対し、厚生年金保険法(昭和60年法律第34号による改正前のもの)による障害年金を支給しないとした処分を取り消し、再審査請求人に対し、平成8年12月分から障害等級3級の同法による障害年金を支給するものとする。

理由

第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、主文と同旨の裁決を求めるということである。

第2 再審査請求の経過
1 請求人は、「右第2・3・4・5指の基節骨の一部残存し以下欠損」(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、平成14年2月5日(受付)、社会保険庁長官に対し、厚生年金保険法(昭和60年法律第34号による改正前のもの。以下「旧法」という。)による障害年金(以下、単に「障害年金」という。)の裁定を請求した。

2 社会保険庁長官は、平成14年6月6日付で、当該傷病の発病日又は初診日が厚生年金保険の被保険者期間内にあったことを確認することができないとの理由により、障害年金を支給しない旨の処分(以下「原処分」という。)をした。

3 請求人は、原処分を不服とし、社会保険審査官に対する審査請求を経て、当審査会に対し再審査請求をした。

第3 問題点
1 請求人の主張するところによれば、当該傷病は、請求人が厚生年金保険の被保険者であった昭和33年6月2日に発生したものであるというのであるから、これが事実であるとすれば、当時効力を有した旧法第47条の規定により、当該傷病に係る初診日から3年を経過した日(その期間内に傷病が治った場合には治った日。以下「障害認定日」という。)において、当該傷病により旧法別表に定める程度の障害の状態にある場合には、障害年金を受給することができることになる。そうして、ここにいう「傷病が治った場合」には、症状が固定して治療の効果が期待できなくなった場合が含まれるものと解される。

2 本件の問題点は、請求人の当該傷病が発生した時期がその主張のとおり厚生年金保険の被保険者期間内にあると認められるかどうかということと、仮にそれが肯定される場合、障害認定日における当該傷病による障害の状態が旧法別表所掲の障害等級のいずれかに該当する程度のものであるかどうかということである(なお、請求人の主張する当該傷病の発生、初診日は国民年金法の制定前であるから、この初診日を前提とする以上、当該傷病による障害について同法による給付の受給権が発生する余地はない。)。

第4 審査資料
本件の審査資料は次のとおりである。

資料1 B病院C医師(以下「C医師」という。)作成の請求人に係る診断書(平成14年1月26日付)の写

資料2 C医師から当審査会に送付された請求人の手のレントゲンフィルム

資料3 請求人作成の病歴・就労状況等申立書(平成14年2月5日付)の写

資料4 D作成の申立書(平成14年1月20日付)の写

資料5 公開審理期日(平成15年6月19日)における参考人Eの陳述

資料6 当審査会職員作成のFからの聴取書

資料7 当審査会職員作成のGからの電話聴取書

資料8 請求人に係る厚生年金保険の被保険者資格記録の写

第5 事実の認定及び判断
1 上記審査資料及び公開審理における請求人の陳述によれば、次の事実を認定することができる。

(1) 請求人は、昭和32年に中学校を卒業し、郷里である○○県○○市からいわゆる集団就職により上京して同年3月30日から株式会社H(以下「会社」という。)の食堂部に勤め、調理室で勤務していた(請求人の陳述、資料5及び同8)。

(2) 昭和33年6月2日、請求人は、調理室にあった電動挽肉機を使用していた際、誤って右手を機械に引き込まれ、当該傷病による障害を負った(資料1ないし7及び請求人の陳述)。
 この事故については、当時請求人が他の従業員に背負われて診療を受け、入院したという病院(I病院)はすでに存在せず、また、約45年という長年月の経過のためもあって会社にこれに関する資料も保存されて居らず、当時労災事故として扱われた形跡もないので、現に請求人が右手の第2ないし第5指が基節骨の一部を残してそれより先を欠いており、各基節骨の断端が鋭利な刃物で一気に切断されたような形状を呈しているということ以外には、客観的にこれを証明する資料は乏しい。しかしながら、事故当時の状況に関する請求人及びいずれも同じ調理室に居合わせたというD(参考人)及びG(電話による聴取)の陳述は、その内容が事故の現場に居合わせた者の長年月経過後の陳述として極めて自然で、かつ、作為によっては容易に具備させることのできないような具体性と整合性を有しており、信頼を置くことができるものと考えられる。また、事故に対する関与はそれほど直接的ではないが、当時の会社社長の子息で社長秘書を務めていたというF(現取締役会長)の陳述も、そのような立場にあった者の記憶に基づくものとして納得できるものである。しかも、上記のうちGは、請求人が本件請求をするにあたって連絡のあった人物ではなく、再審査段階での当審査会職員のFに対する事情聴取の結果その存在が判明した元従業員であって、その陳述に作為が入る可能性は少ないと思われる。以上のような証拠の状況から、当審査会は、上記のような認定に達したものである。

(3) 当該傷病による障害の状態等は、資料1の診断書の記載及び資料2のレントゲンフィルムによれば、次のとおりである。
 右手の第2ないし第5指は、いずれも基節骨の一部を残し、以下欠損(平成13年11月12日現症)
  切・離断日:昭和33年6月
  創面治癒日:昭和33年9月(以後特に治療はしていない)

2 以上に認定したところによれば、請求人の当該傷病は、昭和33年6月2日に発生した事故によるものであり、同年9月末頃症状固定により障害認定日が到来したものというべきである。
 ところで、旧法別表第1において、「一上肢のおや指若しくはひとさし指をあわせ一上肢の三指以上を失ったもの」は障害等級3級に該当するものとされている(3級8号)。そうして、社会保険庁は、旧法上の障害の等級を判定するための具体的な基準として厚生年金保険障害認定要領(以下「認定要領」という。)を定めており、当審査会も給付の公平を期するための基準として、この認定要領に依拠することが相当であると考えるものであるが、認定要領第2章第5節第2「上肢の障害」によれば、「指を失ったもの」とは、おや指については指節間関節、その他の指については近位指節間関節(PIP)以上を失ったものをいうとされているので、請求人の右手第2ないし第5指の障害の状態はこれに該当する。
 したがって、請求人の当該傷病による障害は旧法による障害等級3級に該当するものである。そうして、この障害に対する障害年金の受給権は、障害認定日が到来した昭和33年9月末日頃発生したものであるところ、旧法第92条によれば、保険給付を受ける権利は、5年を経過したときは時効により消滅するものとされている。しかし、保険者は、年金たる保険給付については、この規定をそのまま適用することは酷であるとして、裁定請求権は認めることとし(時効の利益の放棄)、同時に、いわゆる支分権については請求日から5年間に限って遡及を認めるという一般的行政措置をとってきている。したがって、請求人は、裁定請求時から5年を遡った時点において支払期の到来していない平成8年12月以降の分について障害年金を受給することができるものというべきである。

以上の理由により、主文のとおり裁決する。

 (平成15年7月31日)
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