障害年金の申請が受理されると、障害基礎年金は3月、障害厚生年金は3.5月くらいで結果の通知書と障害等級の別表、減額となった場合の改定通知書が送付されるだけでした。
令和2年4月から、不支給とされた方に対し、その「理由記載の充実」を図るため「理由付記文書」があわせて送付されることになりました。
そこで、
- 理由付記文書添付に至った背景
- 不支給や更新停止の実態
- 理由付記文書の想定される内容、対処法
などについて、ご説明します。
障害年金の申請をされる方、すでに受給されている方もご覧ください。
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不支給や更新の不利益処分の理由・原因を知る意味とメリット
不支給や不利益処分の理由が明記されていれば、知るための手間と時間を減らせます。
再申請で支給が認められるには、どうすればよいかわかります。理由が不当だと考える場合は、行政不服審査法にもとづく不服申立て(審査請求・再審査請求)をおこなうときに、その争点も明らかになります。
障害年金の認定審査の公平さや妥当さ(納得)を知ることで、信頼感が高まると思います。
障害厚生年金の等級不該当による不支給通知の「理由」は、以下のように記載されています。
(理由)
請求のあった傷病( )について、障害認定日である平成 年 月 日現在の状態は、国民年金法施行令別表(障害基礎年金1級、2級の障害の程度を定めた表)・厚生年金保険法施行令別表第1(障害年金3級の程度を定めた表)及び厚生年金保険法施行令別表第2(障害手当金の障害の程度を定めた表)に定める程度に該当していません。
また、請求日である平成 年 月 日現在の障害の状態も国民年金法施行令別表・厚生年金保険法施行令別表第1及び厚生年金保険法施行令別表第2に定める程度に該当していません。
障害厚生年金の等級非該当による不支給通知書
障害基礎年金の場合、「厚生年金保険法施行令別表第1(障害年金3級の程度を定めた表)及び厚生年金保険法施行令別表第2(障害手当金の障害の程度を定めた表)」が書かれていないだけで、それ以外は全く同じ内容です。
一般の方が十分理解できる内容でしょうか?
不利益処分等に係る理由付記文書添付の背景
令和元年4月11日、大阪地裁。1型糖尿病で障害基礎年金を受給していた方が更新(再認定)で2級から3級に等級を変更され、支給停止された方が支給再開を求めた裁判で国が敗訴、控訴しませんでした。
受給者の生活を支える年金の支給停止は、重大な不利益処分である。障害年金の認定基準も「非常に抽象的」で、通知書の説明は簡潔すぎて理解だとして、行政手続法で定められた不利益処分の理由明示に反し違法だから取り消すと判示しました。
第十四条 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
行政手続法
原告の方々に対する取り消しは行政手続法第14条が根拠です。
処分対象者には、支給額変更通知書などが送付されます。理由は全員同じ文章で何年何月から支給がゼロ、あるいは減額でいくらになると記載されるだけでした。
不利益処分を書面でする場合、理由の提示も書面でなければならないと同条3項にありますので、「わからなければ、最寄りの年金事務所で説明を受けてください。」もダメなんです。
新規申請者で不支給とされた方も同じでしたが、第8条違反も考慮し送付対象としたと考えます。
第八条 行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。
行政手続法
障害基礎年金の都道府県別認定格差は、報道される以前から問題視されていました。実際、ある県のご家族から電話相談を受けた際、相談が終わる頃に「○○県に住所を移そうかな。」とか、別の方から「○○県に住むようになったけれど病院は変えない。交通費が掛かって困る。」と話される方もいらっしゃいました。
地域格差報道の後、是正の趣旨で開催された専門家会合の論点は、「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」策定に変わりました。その後は中央一括認定へ集約される組織変更への道筋を作る根拠とされたとも受け取れます。
その前年、平成27年9月の初診日認定の緩和通達発出でも、共済組合の障害共済年金では自己申告による初診日で認定し支給決定していた事実が、それに先立ち報道されていたのです。
私の勘ぐりすぎというものでしょうか?
不利益処分等の付記理由書添付の背景は、上記とは異なるように感じます。
付記理由文書添付にあてはまる処分
理由付記文書が添付されるものとしては、
- 新たに障害年金を請求したが不支給と決定された場合
- 障害状態確認届(更新)による等級落ちした場合
- 障害状態確認届(更新)による支給停止とされた場合
- 額改定請求したが額改定不該当とされた場合
- 支給停止消滅届を提出したが不該当とされた場合
の5つが挙げられています。
(新規申請以外の障害状態確認届、額改定請求、支給停止事由消滅届については、精神障害、腎臓・肝臓・糖尿病の障害の方だけ、令和元年10月1日以降の認定分から理由付記文書が送付されてるそうです。当事務所の該当者はいらっしゃいませんでした。)
当然、1級相当なのに2級とされたり、2級だと思ったのに3級だったりした場合は送付対象外は理解できますが、不支給だけです。「初診日確認できないため」と言う「却下」は含まれないようです。
行政手続法の「申請により求められた許認可等を拒否する処分」には、「却下」も含まれるのですが、8条のただし書きにあたるとの判断なのか?除外されたようです。
どのような内容の書類が送付されるかについてご説明する前に、ご覧になる方にその理由書が送られる確率について知りたいと思われませんか?
あなたが送付対象となる確率
実は、厚生労働省や審査を委託された日本年金機構は、直近のデータを公表していません。
一年ほど前に不利益処分等を毎年公表すると報じられました。
国の障害年金を申請して不支給と判定されたり、更新の際に支給を打ち切られたりする人がどれだけいるか、厚生労働省は本年度から毎年データを集計し、公表する方針を決めた。障害年金の支給・不支給の判定にはばらつきが指摘されているほか、判断理由も明示されないため「不透明だ」と批判があった。
データが公表されれば、不支給とされた人数や割合の推移などが分かり、判定の妥当性を検証する材料の一つとなる。厚労省は障害の種類別や都道府県別など、どの程度詳細に集計するか今後詰める。ただ、本年度より前の過去分は集計しない考えだ。
2019年4月30日 東京新聞 朝刊
現状、公式発表はなく、「厚生年金保険・国民年金事業統計」なども調べました現時点では公表データを確認できませんでした。
*令和5年12月5日追記します。
このブログをアップした後、令和2年9月10日、厚生労働省が「障害年金業務統計」して前年度の新規申請と再認定(更新)の結果を公表しました。翌年から日本年金機構が9月10日頃に継続公表しています。
令和4年度で新規申請の61.5%、更新の73.2%と最も多い「精神障害・知的障害」診断書で等級審査を受けた方の結果を引用します。
新規申請支給率 障害基礎年金 93.6%、 障害厚生年金 95.6%
再認定(更新)支給停止率 障害基礎年金 0.7% 障害厚生年金 減額改定 2.0%、支給停止率 0.9%
この件については、新たな投稿を行いたいと思います。
以上、追記はここまで。
平成27年3月第8回社会保障審議会年金事業管理部会資料「障害年金制度の運用に関する対応状況についての参考資料」障害年金の支給決定等に関するデータ1.新規請求に関するデータpdfがあります。
残念ながら、障害基礎年金の認定の地域差に関する専門家検討会の資料のため、障害基礎年金しかなく、平成22年度から平成25年度分までのデータしか記載されていませんでしたが参考として以下ご紹介します。
障害基礎年金の不支給率(h22~h25年度)
平成22年度から平成25年度の合計から、障害基礎年金の受給率は、84.7%でした。
請求件数合計 | 不支給件数 | (障害不該当) | (初診日不明他) |
479,517 | 73,113 | (43,137) | (29,976) |
% | 15.3 | (59.0) | (41.0) |
あなたが障害基礎年金の不支給理由書を送付される確率は、15.3%です。
因みに、不支給理由の割合を見ると、障害等級が2級以上に該当しないが59%でした。
初診日が特定できない他の理由による不支給割り合いが、41%となりました。言い換えれば、障害基礎年金の受給確率は84.7%です。
障害基礎年金更新で等級落ちや支給停止となった率(h22~h25年度)
同じ資料の中の「2.再認定に関するデータpdf」から算出しましたが、受付件数しかない都道府県は除外したこと、障害により継続支給の割合が異なることと、留意しなければならない点があります。
参考数値ですが、更新による支給停止や等級落ちは2.9%でした。
受付件数 | 継続件数 | 支給停止 | 等級落ち |
148,382 | 144,049 | 3,382 | 951 |
% | 97.1 | 2.3 | 0.6 |
不支給率15.3%、更新停止・減額2.9%
この結果についてどう思われますか?
障害基礎年金の不支給率、更新停止率が低い原因
障害基礎年金の不支給率、更新停止率等が低くなる原因は、20歳前初診日の障害基礎年金が挙げられます。
初診日証明が成人したケースよりも容易であり、保険料納付要件は考慮しなくても良いこと、先天性疾患で障害状態は重く変動が少ないこと等が要因だと考えます。
障害厚生年金の不支給率、更新時の支給停止率や等級落ちの割合は?
障害厚生年金の不支給率、更新停止や等級落ち(減額)は、障害基礎年金よりも高いのではないかと推測されます。
残念ですが、不支給率の参考となるデータは見つかりませんでしたが、更新時の停止に関する参考データがありました。令和元年11月末時点のものです。
障害厚生年金の受給者数 447,431 受給権者数 639,153
障害基礎年金の受給者数 2,111016 受給権者数 1,981,942
厚生年金保険・国民年金事業統計 第8表 障害等級別障害年金受給(権)者状況より
(実際に受給している方の総数) ÷ (受給権はあるが、実際に受けていない方の総数)で計算してみました。
- 障害厚生年金の受給者率は、70.00%
- 障害基礎年金は、93.89%
先ほどのデータとくらべると3.2%、更新支給停止率が上がりました。
他の年金も受給できるようになった場合、有利な年金を選ばなければならない結果の受給停止の他にもさまざま理由が考えられます。それらの原因を考慮しても、障害厚生年金の更新時の不利益処分等を受ける可能性は、障害基礎年金よりも高くなると考えます。
障害厚生年金の不支給率は、支給等級が2級でなく3級以上であればよいことから、障害基礎年金より低いと考えられますが、どうでしょう?
私の経験からすると、障害厚生年金の方が難しく、3級認定も容易ではないと感じます。
理由付記文書を読んだら理由や原因がわかる?
理由書の内容
理由付記文書に記載される項目は、以下のとおりです。
- 認定方法
- 障害認定基準
- 診断書等の記載内容
- 判断
重要なのは3番目、次に最後の4番目です。
認定方法、認定基準は同じ障害なら同じで、申請する方によって異なることはほぼないと思いますし、あまり重要ではありません。
今年の1月22日、厚生労働省が日本医師会宛に示した理由付記文書の例・「統合失調症のケース(障害基礎年金)」では、3番目の項目は次のように記載されています。
あなたの障害の状態、日常生活状況等に関しては、以下の事情が認められます。
・「日常生活能力の程度」は、「(3)精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である」であり、「日常生活能力の判定」(程度の軽いほうから1~4の4段階評価に置き換え、その平均を算出したもの)は1.5以上2.0未満であること
・一人暮らしであること
・一般企業で一般雇用、週に5日、コンピュータープログラムを作る仕事をしていること、仕事場での援助の状況や意思疎通の状況は「無し」であること
・福祉サービスの利用がないこと
・平成〇年〇月から平成〇年〇月まで継続して厚生年金保険被保険者であること
「1級及び2級の障害状態には該当しないと判断しました。」記載されていました。
読んだ後の対応
理由説明を読んでも理解できない場合、次のふたつの方法があります。
- 最寄り、または申請を受け付けた年金事務所で詳細な説明を受ける。
- 保有個人情報開示請求を厚生労働省に提出し、「障害状態認定調書(障害基礎年金)」または「障害状態認定表」を取り寄せ判断の根拠を確認する。
年金事務所が理由付記文書を作成します。年金事務所の説明は余り期待できないでしょう。
窓口相談は、予約が取りにくいこと。コロナウィルス感染リスクも考慮しなければなりません。
10日くらいで連絡があり、取得まで1か月くらい掛かります。手数料として300円の収入印紙も必要ですが、保有個人情報の開示請求をおすすめします。
それでも理由がわからない、納得できない場合の対応についてご説明します。
再申請(再請求)
再申請(再請求)は、診断書の内容が実際よりも軽く書かれてしまったが、現在の状態も受給できる障害等級に該当する場合などでは有効な対応策といえます。
直ぐにでもできる場合とできない場合があります。直ぐできるのは、次の3つです。できる限り早く手続きを終えることがポイントです。
- 新規申請で不支給だった場合
- 更新で額改定請求の同時提出しなかった方が額改定請求をする場合
- 支給停止事由消滅届が認められず支給停止のままだった場合
期間制限があるのは次のような事例です。これに該当すると1年待たなければなりません。
- 更新で等級が変更された場合
- 更新で額改定請求を同時に行ったが等級が同じだった場合
ただし、「障害の程度が増進したことが明らかである場合」にあてはまる場合は1年待たなくてもよくなります。認定された等級に納得が行かない場合、審査請求は可能です。
審査請求
処分を知った日の翌日から3ヶ月以内におこないます。
決定の判断理由が争点となりますので、それを覆す証拠の提出が必要です。後出しは原則、無意味です。たとえば決定後に作成した診断書の提出などです。
遡及請求の障害認定日請求で支給が認められた場合、事後重症請求の認定等級に不服があっても、額改定請求を同時に提出しなかった場合、審査請求は認めらません。
更新時に額改定請求を同時に提出しなかった場合、等級据え置きに対する審査請求は認められません。
再審査請求と再申請(請求)
同時におこなっても問題ありません。どちらも認められた場合、有利な方を選べばよいだけです。
まとめ
従来の通知から見れば、今回の理由書送付開始は改善として歓迎すべきですが、障害年金の審査を受ける側の目線、代理した社労士の目線からは不安は拭えません。
現状の障害状態認定調書等の記載状況からすると、付記理由書に記載される「総合的な判断の理由」が、「例」のような内容・程度なのか?内容・程度のレベルが維持されるのか?
その後の審査請求・再審査請求で「理由の追加、差替え」についても、注視して行かなければならないと思います。
また、受理後の決定が遅れる場合、審査が遅れている旨の通知書が送付されます。遅れる原因や理由も知らせるようにしてもらいたいものです。
最後に繰り返します。令和元年度障害年金認定状況のデータの早期公表、報道も含め周知されるよう期待します。
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