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障害基礎年金支給停止処分取消請求事件、東京地裁 平19(行ウ)546号 平成20.10.22(確定)

【主文】
一 社会保険庁長官が平成18年6月15日付けで原告に対してした平成16年3月から平成18年2月までの国民年金法による障害基礎年金の支給を停止する旨の処分を取り消す。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
1.前提事実
・ 原告は、平成8年12月21日、ベニヤ板の下敷き事故で肝損傷、入院、各種施術を受けた。
・ 平成10年9月30日、経皮経胆道ドレナージ術(PTCD。胆道の狭窄・閉塞により排出されなくなった胆汁を、皮膚に孔をあけて胆管内にカテーテルを挿入することによって、体外に排出する措置)をうけた。
・ 同日以後、原告は、常時、体内に胆道ドレナージのカテーテル(PTCDカテーテル)を留置、かつ、排出する胆汁を溜める胆汁バッグを腹部に装着することとなった。
・ 原告は、平成11年5月17日に障害基礎年金を裁定請求した。
・ 社会保険庁長官は、同年7月22日付けで障害等級2級として認定したが、2年後に再認定を実施するとした。
・ 平成13年再認定された。2年後の再認定を実施することとした。
・ 原告は、平成15年11月の再認定に際し、診断書を提出せず、同月以後の障害基礎年金の支給が差し止めされた。
・ 原告は、平成18年3月、社会保険庁長官に対し、再認定を求め以下の診断書を提出した。
 ① 平成15年11月29日付け
 ② 平成18年2月27日付け
・ 社会保険庁長官は、平成18年6月15日付けで、①の診断書で2級不該当、②の診断書では2級該当と認定し、以下の裁定をおこなった。
 ① 平成16年3月から平成18年2月まで支給停止。
 ② 平成18年3月以後、障害基礎年金を支給する。
・ 原告は、審査請求、再審査請求ともに棄却され、平成19年8月25日に訴訟提起した。

2.争点
(1) 障害基礎年金の障害等級の認定の在り方
(2) 原告の平成15年11月当時の障害の程度が障害等級2級に該当しなくなったとする認定の適否

((1)の被告(国)の主張要旨)
・ 障害認定基準は、認定審査において、その事務を統一的に行い、裁定における客観性および裁定請求間における給付の公平を確保することを目的として定められており、社会保険庁長官も、個別の事案における障害等級の認定においては、障害認定基準の従って運用、本件についても同基準に従って判断するのが相当である。
・ 仮に、支給停止処分の前後における支給が認められた時期の障害の程度が、当該処分時と大きくことならないものであったとしても、そのことから直ちに、当該処分時の障害の程度も支給が認められる程度のものであるということはできない。あくまでも当該処分時における請求者の障害の程度に着目して、それがいずれの障害等級に該当するのかを検討すべきである。
((1)の原告の主張)
・ 障害認定基準は、当該等級に該当する場合の一部を例示するものにすぎず、絶対しするべきものではない。異常な検査値が検出されれば、判断要素となり得るとしても、検査時の体調次第で異常値が検出されない場合もあり得ることから、等級判断は、個別具体的な病状の経過等を参考に、日常生活状況をを把握し、国民年金法施行令別表の摘示する状態が認められるか否かによって判断されなければならない。
((2)の被告の主張)
・ ①原告の平成15年診断書では、肝機能検査における中等度の異常を示す数値はなかった。
  ②主治医は、原告の日常生活状況について、ほぼ問題ない旨の診断をしている。
  ③原告の診療録によれば、原告は、平成15年当時、胆汁バッグの破損による交換のための受診以外は、定期的な経過観察の目的による受診しかしておらず、胆管炎等の炎症を起こしていた所見もなく、平成15年診断書でも、自覚症状はなく、他覚所見としても黄疸があるのみで、症状は安定していたと言える。
  ④原告は、上記外来診療録によれば、平成15年5月19日に医師に対して長時間労働をしている旨の発言をしており、長時間労働に耐え得る状態にあったと認められる。
  ⑤原告の平成18年診断書によれば、原告の平成17年3月の肝機能検査において、総ピルビリンが高度異常を示しているほか、動悸及び呼吸困難といった自覚症状があったこと、さらに、原告の診療録によれば、同年3月18日、同月22日及び同年5月13日に背中の痛み、検査値の高度の異常値及び発熱があったことが認められ、平成18年2月当時の原告の症状は、胆管炎を発症するなど、平成15年11月当時よりも悪化していたことをうかがうことができる。
・ 原告は、体内にPTCDカテーテルが留置され、胆汁バッグを装着しているが、症状が安定し、日常生活の支障がなければ、障害等級2級に該当しないから、上記医療機器の留置・装着による発熱や破損のおそれがあるとしても、そのことをもって障害等級2級に該当すると認めることはできない。
((2)の原告の主張)
・ 原告は、常にPTCDカテーテルを体内に留置しなければならず、病状は、肝移植を除き手術的な治療が困難であり、継続的治療を受けているものの、状況の好転を望めない。
・ 原告の症状を総合的に判断するためには、平成15年11月時点のみならず、その前後の時期の病状の経過を踏まえたうえで判断されるベきである。
・ 原告の病状は、平成11年以降、好転することなく推移している。当該医療器具は破損しやすく、胆汁漏出もあり、原告の障害状態は2級の障害等級の基本的な例示に該当するものだ。

3.裁判所の争点に対する判断
(1) 
ア 障害基礎年金の支給要件である障害の程度(障害等級2級以上)に該当しなくなったとの認定に基いてされた支給停止処分の適否については、少なくとも肝疾患による障害に関する限り、処分行政庁の当該認定における障害認定基準の解釈・適用の適否の観点から判断されるべきものと解するのが相当であり、国民年金法施行令別表所定の日常生活に及ぶ制限の程度に応じた区分の趣旨・内容に沿って検討されるべきものというべきである。
イ 本件では処分(支給停止)時に近接した平成18年2月当時の障害状態について障害等級2級に該当する旨の認定がされている以上、平成15年11月当時の現症を記載した診断書の記載のみに基いて判断するのではなく、その前後の期間における自覚症状、他覚所見、検査成績、一般状態の推移のほか、その前後の期間における治療及び病状の経過、具体的な日常生活状況等をも考慮して、総合的に判断する必要があるというべきである。
(2)
・ 診断書比較

   平成11年 平成13年  平成15年  平成18年 
臨床所見  脾腫大著明、黄疸、発熱,かゆみ、食欲不振、腹部膨満感、倦怠感、肝肥大。  黄疸、悪心、かゆみ、脾腫大、肝肥大が見られる。  自覚症状(悪心、食欲不振、かゆみ、全身倦怠、発熱、黒色便)はなく、他覚所見として、時に胆管炎、黄疸。  自覚症状(悪心、食欲不振、かゆみ、全身倦怠、発熱、黒色便)はなく、他覚所見として黄疸のみ。循環疾患の臨床所見であるものの、動悸及び呼吸困難が著明であるとの自覚症状があった。 
肝機能検査 GOT 105
GPT 152
ALP 639
総ピルビリン
6.5mg/dl 
GOT 118
GPT 197
ALP 1210
  総ピルビリン
1.56mg/dl
GOT 80
GPT 120
ALP 1617
血小板数 11.1
 総ピルビリン
1.69mg/dl
*チャイルドビュー分類:グレードA
*CT検査:肝外門脈閉塞、胆道下皮拡張
GOT 76
GPT 145
ALP 1372
総ピルビリン
1.46mg/dl
(3月に3.06mg/dl)
血小板数 10.8
*チャイルドビュー分類:グレードA
一般状態区分
 三 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助のいることもある。軽労働はできないが、日中の50%以上は起居している。   三 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助のいることもある。軽労働はできないが、日中の50%以上は起居している。   ウ 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助のいることもある。軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの。   イ 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など 
日常生活及び労働能力  PTCDカテーテルや肝障害のため日常生活に制限があり、時に介護を必要とする。労働は不能である。   軽作業なら可。   日常生活にはほぼ問題ない(注)が、PTCDカテーテル挿入中であり、時に胆管炎、黄疸を生ずる。 
(注)その後の社会保険審査官あて回答書で、「日常生活に問題がないとはいえず、時に入院を要することも考えられます。」と医師は記載。
 胆道狭窄のためにPTCDカテーテルが留置され、時に胆管炎、黄疸が生ずる。
・病歴及び就労状況
 年 状況 
 平成11年  4月14日、転院。PTCD自体良好。5月10日、黄疸改善。6月30日、発熱、その後腹痛。8月9日、頭痛を伴う発熱その後も継続。8月13日から19日まで入院、8月30日退院後、食欲上昇。9月8日発熱、血小板の減少のため、8日、10日、17日投薬治療、熱低下。10月5日、胆汁バッグ破損交換。18日、経過観察、PTCD入れ替え。11月6日、15日の経過観察など毎月1,2回の通院。
 平成12年  2月2日、痰のつまり、黄疸、発熱で通院。14日、微熱。28日、腹部の膨満感及び発熱で通院。3月14日、以後はPTCD入替えの効果で体調改善。6月19日には医師に保険の外交員を始めたと話した。その後、胆汁バッグ交換のため救急外来を訪れたほか、ほぼ1から3月に1度通院していた。 
 平成13年  5月18日、上腹部痛で受診。21日再受診時には問題ないとされ、胆汁バッグ交換のため救急外来を訪れたほか、ほぼ1から3月に1度通院していた。 12月10日、発熱、黄疸で受診。入院を勧められたが、11日に熱が下がったので経過観察とし、17日通院。
 平成14年  2月4日、3月11日、4月8日、5月13日、6月10日に経過観察及び投薬のため受診したが、いずれも経過良好とされた。8月24日、PTCD破損で救急外来を受診、自分で交換するためPTCDを受け取った。その後は通院していなかった。 
 平成15年
 1月21日、PTCD破損、救急外来を訪れ、交換とPTCDを受領。その際、鼻水、咽頭痛を訴え、風邪薬を受領。3月31日、胆汁バッグ交換のために救急外来を受診、バッグの交付を受ける。5月19日、6月9日、10月20日に経過観察。いずれも経過良好とされた。5月19日の診療録には、運送会社の仕事が忙しい旨の記載があった。
 平成16年  1月18日、2月21日、 胆汁バッグ交換のために救急外来を受診、バッグの交付を受ける。1月18日に受診予約を勧められたが、受診しなかった。6月2日、交換用PTCDを受領するために受診したが、医師の診察を受けるよう指示され、7月20日受診。PTCD接続不良の胆汁漏れのため交換。予備のPTCDを受領。症状は安定とされた。26日、発熱はないが、胆汁漏れを訴えた。8月9日、検査。23日受診、著変なしとされる。10月18日、再受診。著変なし。
 平成17年  3月18日、背中の痛み、微熱。胆管炎の疑いから入院を勧められるが、仕事があるのでと答えたので、投薬のみ。20日以降、体調改善。22日熱低下、総ピルビリンが高度異常値を示したが、胆汁の排出が良好なため、抗生剤の投与による経過観察となった。28日、熱低下、黄疸も減少し、総ピルビリンも程度異常値となった。4月25日、経過良好。5月23日、著変なし。8月5日風邪。8日、風邪。特に治療せず。11月28日、経過良好とされた。 

・ ①から③、⑤
「平成15年診断書の一部の表現が必ずしも十分ではない点があるが、」
平成15年検査数値で改善された数値であっても中等度異常であり、平成18年数値より異常を示す数値も多いこと。一般状態区分も平成18年度より重度で、日常生活能力についても回答書で説明が補充されていることから、同様の状況が継続していたことが看取することができる。
・ ④労働能力
原告は、医師に対し平成12年6月に保険の外交員を始めたと述べ、平成15年5月に運送会社に1日平均10時間勤務していると述べ、平成17年3月にも仕事を理由に入院できないと述べているものの、本件証拠上、平成15年11月当時における原告の可動の時間・態様等は明らかではなく、常時体内にPTCDカテーテルを留置されて腹部に胆汁バッグを装着し、衛生的な管理や破損・胆汁漏れ等への対応を要する状況の下で、生活上の必要から本人の努力によって軽い事務等の業務に一定時間従事していたとしても、客観的に労働能力及び日常生活活動能力に相当程度の制限が加えられる状態が継続していたことに変わりはなく、原告の可動の事実のみをもって、日常生活に対する制限の程度に関する判断が左右されるものではない。
* 本判例については、判例時報No.2095(平成23年1月21日)を参考にしております。
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