障害手当金とは?

障害手当金は、初診日に厚生年金加入中だった方が年金の障害等級に該当しなくても一定の障害状態(4級?)となられたとき、1,224,000円以上の金額が支払われる一時金です。(昭和31年4月1日以前生まれの方は1,220,600円)

受給条件とは?金額は?申請のポイントは?受給後の注意点、更に悪化し年金受給に変更したい場合の手続き、対応等についてわかりやすく、詳しくご説明します。

障害手当金の受給条件

次の条件をすべてクリアすること必要です。はじめてご覧になる用語等についてはリンク先や後述の説明をご覧ください。

1.初診日に厚生年金加入者であること。

2.保険料納付要件を満たしていること。

3.初診日から5年を経過するまでに傷病が治って(医学的に治癒していなくても、症状固定し治療を続ける必要がなくなった状態も含みます。)いること。治った日に3級にはいたらない厚生年金法施行令別表第2程度の状態であること。

4.「治った日」に厚生年金(共済組合)、国民年金の年金(障害、老齢・退職、遺族)を受給できる資格がないこと。

5.「治った日」に同じ傷病で、労働基準法、労働者災害補償保険法、船員保険法、公務員の災害補償法、公務災害補償法により障害補償を受けていないこと。(別傷病での受給なら問題ありません。)

6.治った日から5年以内に申請すること。

* 注意点

ア)厚生年金法で「治った日」(厚生年金法55条)と「障害の程度を定めるべき日」(同法56条)と別に書かれていますが、同じ日です。

治った日(症状固定日)の障害状態で支給できるかを判断するということです。(実際には治った日から3月以内の受診日の診断書で審査し ます。)

イ) 3について;障害状態が3級でないが、障害手当金に該当し障害が治っていない場合、3級の障害厚生年金が支給されます。3級14号該当となるからです。この方が、更新等の時点で3級の状態にはないと判断された場合、障害年金は支給停止されます。

ウ)4について;「障害年金の受給権者で3級不該当のまま3年経過した方は障害手当金が受給できる。」と受け取れるような文言が条文にあります。しかし、現在、年金受給権は等級不該当のまま3年経過しただけでは消滅しません。

エ)6について;申請しても時効で支払いが受けられる権利(支分権)が消滅するからです。(厚生年金法第92条)

オ)傷病手当受給者は障害手当金を受給できますが、支給額調整が行われます。(後でご説明します。)

カ)共済組合加入期間中(平成27年10月まで)の方は、障害手当金ではなく障害一時金が支給されます。

障害手当金の支給額はいくら?

1.症状固定した月までに納付した厚生年金の月数で、計算される報酬比例額(=障害厚生年金3級の金額)の2倍です。

2. 1の納付月数が300月に達しない方の場合は、次のような増額計算が行われる。

例;158月だった場合、300÷158の計算結果を1の額に乗じた年金額となります。

3. 1や2で計算した年金額が最低保証額の1,224,000円(昭和31年4月1日以前生まれの方は1,220,600円)に満たない場合、最低保証額が支給されます。

対象となる障害状態とは?対象外障害とは?

「治った」日に厚生年金法施行令別表第2に定める程度の障害状態にあれば受給できます。「治った」ことが条件です。

労働に 「著しい制限がないような状態」でも、治っていないことを理由に障害厚生年金3級の年金が支給されることもあります。3級14号に該当する方です。

うつ病、双極性障害、統合失調症、知的障害、発達障害、てんかん等の精神疾患障害手当金の支給対象とはされません(症状性を含む器質性精神障害は除く。)

認定基準にもある通り、精神障害はさまざまな要因から障害状態が変動する。との考えによるもの。

がん(悪性新生物による障害)も同様に障害手当金の支給対象外とされます。

その他の障害でも、認定基準の「障害の程度」に「障害手当金」が記載されていない障害(内部障害)は障害手当金の対象外です。

呼吸器疾患による障害、心疾患による障害、腎疾患による障害、肝疾患による障害、血液・造血器による障害、代謝疾患(糖尿病)による障害、高血圧による障害、その他の疾患(難病等)があげられます。

令和3年度の障害手当金決定状況

審査を行う日本年金機構が公表した障害手当金の支給決定率は、以下のリンク先資料の5ページで確認できます。

出典:日本年金機構/障害年金業務統計(令和3年度決定分)

眼の障害は5.5%。聴覚等(聴覚・鼻腔機能・平衡機能、そしゃく・嚥下機能、音声又は言語機能)障害は、4.9%。肢体障害は1.1%

(障害手当金も含む)障害厚生年金支給決定全障害の支給率が94.4%から比べると、不支給率に近い相当に低い結果です。

申請のポイント、障害状態よりも問題となるのが症状固定

① 障害認定日の特例に該当すれば、1年6月を待たずに請求できる。

② 診断書の「症状固定を確認した旨」と「確認年月日」が必ず記載されていること。

③ 障害手当金の手続きは、障害厚生年金の手続きと同じです。

審査の結果、障害年金3級以上と認定され年金が支給されるか?「症状固定」や「障害状態」を理由に障害手当金の支給が認められるか?そうでないか?だけですから。

*注意点

申請しても「症状固定していない。」と判断されるケースが見られます。申請者(患者)、主治医と日本年金機構の認定医とでは、症状固定の捉え方に開きがあることが理由の一つです。

日本年金機構の認定医は障害年金の「症状固定」を限定的、厳格に判断します。診断書を書かれる臨床医の「症状固定」を否定する事例も少なくありません。

「経過観察」状態なのに「症状固定した。」と受け取り障害手当金の手続きをはじめられる患者さんも多い。障害年金119でもそのような方からの無料相談を多数受けます。

障害手当金の障害認定日は症状固定を確認した日です。年金の障害認定日(原則、初診日から1年6月経過日)を症状固定日と診断書に記載されたり、初診日から1年6月まで待つように言われたりされる先生もいらっしゃいました。

障害年金の症状固定に関する主治医の認識不足が原因ではないかと思われます。

障害手当金の申請をはじめる前に、本当に症状固定したか?について確認されることが最優先だと考えます。

他制度との支給調整について

1.障害手当金と同じ障害で健康保険の傷病手当を同時に受給する場合、障害手当が支給されます。

治った日の翌日以降に支給される傷病手当金の受給額が、障害手当金の支給額を超えるまで傷病手当は支給されません。

2. 交通事故等の第三者行為災害による損害賠償を受けられた方は、受けた額に応じて障害手当金の支給額が減額されることもあります。(詳細はリンク先をごらんください。)

「障害手当金受給後の悪化は年金申請ができない」はマチガイ

障害手当金は症状固定したから支給されたのだから、受給後は障害年金の申請はできないのでしょうか?

「障害手当金を受給したら、障害年金の申請はできない。」、「(だから)申請は慎重に」等の情報は、間違いです。障害手当金受給後でも障害年金の申請は可能です!!

日常生活を送る中でさまざまな要因から障害状態が悪化することはあり得ることです。

日本年金機構の内部資料(平成23年6月22日、平成23年12月公表の疑義照会)によれば、障害厚生年金の等級に該当するようになった場合の取り扱いについて機構本部に確認したところ、次のような対応をするように説明しています。(要点以外の箇所は私が省略しました。)

「障害手当金支給決定時の「傷病が治った」ことの認定が誤りであったこととなる。よって、将来において厚年法47条の2による事後重症の受給要件を満たせば、障害厚生年金の受給権を取得し障害手当金の支給決定の取り消しを行う。

ただし、障害手当金の取り消しが支給決定から5年の時効の範囲内なら障害手当金は全額返納しなければなりません。」(引用以上)

障害手当金は3級の年金(報酬比例部分)の2年分。更新(再審査)はありません。

年金は通常更新があり、等級不該当とされ、支給停止されることもあり得ます。更新は2年以上先の誕生日のある月が多い。障害厚生年金3級で2年1ケ月以上受給すれば、障害手当金よりも受給累計額は多くなります。

障害手当金を返納しなければならなくても、2年以上受給できる年金の方が有利ですね。

仮に返納しなければならなくなった場合、一括返納だけでなく分割返納も認められます。

老齢年金で配偶者の手続きが遅れ、受け取れないはずの配偶者加給年金が払われ続ける「過払い」でも分割返納が認められています。

障害手当金から年金への切り替えはご本人に責任はありません。少なくとも「就労に著しい制限」以上の障害状態で経済的にも厳しい状況にある方が多いのですから分割返納は認められて当然です。

障害手当金受給後に障害年金を追加申請するには?返納は常に覚悟しなければならないのでしょうか?

障害手当金を受給された方の障害年金の(再)申請方法、障害手当金の返納を求められない場合について以下ご説明します。

(1)障害手当金受給後に同じ障害が悪化し、障害年金3級以上となった場合

障害厚生年金の事後重症請求を行います。全額返納を求められることもあります。

(2)障害手当金受給後に別の障害(後発障害)を併発した場合

もちろん年金申請は可能です。

① 後発障害だけで年金申請する場合

通常の障害年金申請をすれば良く、障害手当金とは別傷病ですので結果を待つだけです。

② 障害手当金の障害と後発障害と合わせて申請する場合

複数の障害を合わせるとより重い等級で認定されることがあります。このような認定手法を併合認定と言います。(詳細はリンク先の説明をご覧ください。)

障害手当金の障害と後発障害で併合認定すると2級以上の年金受給が可能となる場合、「初めて1,2級」の申請を行います。(詳細はリンク先をご覧ください。)

この申請方法だとすでに受給した障害手当金は返納しなくてもよいのです

初めて1級か2級の年金支給が認められた場合、後発障害の初診日の加入年金制度、保険料納付要件で支給される年金が決定されます。

後発障害の初診日に国民年金加入なら障害基礎年金だけ、厚生年金加入だったら2級以上であれば障害厚生年金と障害基礎年金が支給されます。障害手当金の障害とは別の障害年金とされ、同一障害ではなくなるからです。

注意すべき点があります。障害の組み合わせはどんなものでも1,2級で認定されるのではない ことです。( 併合認定について詳しく説明したリンク先ページをご覧ください。)

国民年金加入なら障害基礎年金だけ、厚生年金なら障害厚生年金も合わせて支給されます。

(3)障害手当金受給障害よりも前に初診日のある傷病(前発傷病)が悪化した場合

① 前発障害が障害等級3級に該当する場合、前発障害単独で障害年金の申請をする。

障害手当金の返納はしなくてもよい。理由は別の傷病だからです。

前発障害が2級以上に該当する場合、初めて1,2級の申請はできません。

② 前発障害の障害状態が障害障害手当金相当で他の受給資格を満たす場合、前発障害単独で障害手当金を申請する。

障害手当金の返納義務はありません。別障害ですから。

以上で障害手当金に関するご説明を終えます。ご不明な点等がございましたらご連絡をいただければと思います。

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